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私の履歴書 マリアッチ
ミ☆マリリンの過去回想日記/トラパットーニ編☆彡




街のはずれで愛をなくして途方に暮れる僕に、彼はそっと励ましの言葉をかけてくれたんだ。

それが、彼、トラパットーニとの出会い。



その日僕は何ヶ月も暖めていた恋心を、何度も迷った挙句やっとの思いでサブリナさんに伝えたんだ。 

結果は推して知ってほしい。 でも当然と言えば当然だ。

僕は人一人守ったことすらない貧弱なヒヨっ子ナイト。 

かたや向こうは誰もが振り返る程の美人で町の多くの男たちに慕われているオトナの女性。 


僕の認識が甘かっただけなんだ。 

告白するときも足が震えてうっかり足元にあった木箱に小指をぶつけちゃったしね。 

結果は残念だけど、これでまたひとつオトナになれたと思おう。 

こうやってどんどんオトナに近づいていけば、いつかサブリナさんだって……。


でも、やっぱり悲しい。

告白なんかもちろん初めてだったけど、振られるってことはこんなにもダメージが大きいだなんて……。



僕はとりあえず人気のない路地へ行き、しばらく泣いた。 

こんなに泣くのは子供の頃可愛がってた子牛のドナが連れて行かれたとき以来だ。

はぁ、どうしよう。 今日はもちろん狩りには行かないとして、宿屋まで歩く力すら出ないよ。


今の僕は悲しみに暮れるヒロイン。 現れたナイトに抱きかかえられるのを洞窟の中で孤独に待ち続けるお姫様。



そこへ、突然声が聞こえてきた。 え?ナイトきたの? まだ眉毛も書いてないって!


「のう、若いの、何を泣いておるんじゃ。 今にも死にそうな顔をして」


気づくとお爺さんが傍に立っていた。 やたらと人のよさそうな笑顔をした小さなお爺さん。

でもごめんよ、今は誰とも話したくないんだ。 僕はその場を離れて新たなる泣き場所を探すことにした。


「どうしたんじゃ、おなごに振られでもしたんかのう。 今は辛いじゃろうがそんなものは三日で立ち直れるもんじゃぞ。 何百回とそんな目に合ったワシが言うんだから間違いない。 ふぉふぉふぉ」


お爺さん、大しておもしろくもない冗談言って自分で笑ってるよ……。 だけどこのお爺さんの発する不思議な空気のせいか、つられて笑ってしまう自分がいた。


「ハハハ、ご名答です、ご老人。 さっき振られたばかりなんですよ……」

「ふぉふぉ、そんな悲しみを味わえるのは若人であればこそじゃのう。 どうじゃ、一杯奢ろう。 話を聞かせてくれんか?」



さっきは誰とも話したくないと言ったけれど、向き合っているだけで不思議と心を落ち着かせてくれるこのお爺さん。 

よく笑うお爺さん。 その笑顔で人の心をほぐすお爺さん。 話を聞いてもらって損はないと思った。



「よし、じゃあまだ日も暮れておらぬが一杯やるとしよう。 いい店があるんじゃ。 オカミ、いやマスターのことじゃがそのオカミがまた美人で──」

「ちょっと待ったご老人、今その店だけはご勘弁を……」

「……なんじゃ、そういうことか。 それはそれは面白い話が聞けそうじゃわい」

「こっちは面白くないですよ!」



今考えるとこのお爺さん、トラパットーニさんはこう見えて言葉を慎重に選んでいたのだと思う。

いや、それは本能的にやっていることなのかもしれないけど、少なくともトラパットーニさんの言葉で僕の心がネガティブな方へ向かうことは何ひとつなかった。 

これが人生経験の差ってヤツなのかな。 見習わないと。



とりあえず僕らは適当な酒場に入った。

「さて、お前さんの名前を聞かせてもらおうかの。 ワシの名はトラパットーニじゃ。 176年間この世界を眺めてきておる」

「あ、僕の名はマリアッチです。 半年前にナイトになる為に大陸へ出てきて……って176歳!? ちょっと長生きしすぎ、あ、いや失礼」

「ふぉふぉふぉ、ドワーフの世界じゃ176歳で現役の者も沢山おるわい」



なんと、トラパットーニさんはヒューマンじゃなくてドワーフだとは。

大陸に出てきて半年。 ドワーフという人たちの存在は倉庫や鍛冶屋で知っていたけど、皆お金に厳しいイメージしかなかった僕にとって、目の前にいるこのお爺さんがドワーフであることは衝撃だった。


「へぇ〜、僕、ドワーフの方とこういう風にお話するのって初めてです」

「ほほう。 それはよかった。 ワシはお前さんの初体験ということじゃな。 ふぉふぉ」

「……しかし何で僕に声をかけてくれたんです?」

「そうじゃのう。 こんな年にもなると、中には現役の者もいるとは言え皆外に出ることも難しくなる。 彼らの仕事も倉庫番や机仕事が主じゃ。 当然旅をして世界を見て周るなんてもってのほか。 じゃからワシは沢山の人の話を聞いて、できるだけ沢山の『世界』を見て周りたいのじゃよ。 そこへ細い路地でうずくまるお前さんの姿じゃ」

「なるほど。 そんなこと考えたこともなかったなあ。 とにかく島から出たいと思ってナイトになるって口実作って飛び出してきただけで、旅とか世界とか……」

「ふぉふぉ。 今はそれでいいのじゃよ。 若いうちはどんな生き方でも選べる。 わざわざ道を狭めることもあるまいて。 ……して、あの店のオカミに振られたというわけじゃな?」

「あ、ええ……本気で好きだったんですよ。 それが……」

「わかるわかる」

「でも、僕なんか相手にされるわけなかったんですよね」

「そうだねえ」

「今だってきっとサブリナさん目当ての男たちでお店賑わってるんだろうなあ……」

「だろうね」

「すごく有名なパラディンの人もご執心だって聞くし。 あの人ならお似合いだよ……」

「そんなに卑屈になるなって!」

「そんなこと言われたって……ってアレ?トラパットーニさん、口調が……」

「あー、もうジジイ喋りめんどい^^; リアルじゃ絶対『じゃよ』とか言わないし^^; 俺まだ23歳だし^^; つーかホントのジジイになってもそんな喋り方しないよ^^; ついでに言うとお前の話聞くのもめんどい^^; もっとテキパキ喋れよ^^;」


僕はそっとログアウトした。

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